カプ厨で夢厨で厨二病で高二病なオタが好きな物を欲望のままに書いています。

2019年9月16日月曜日

おさとうカカオ

沙明←女主人公でループ中のとある一幕(捏造)
ミンと呼んでみるだけの話。

・女主人公について
 個性ある方
 伏せるのも違和感あったので名前が出ます(サクラ)
 好物出ます
・時々修正される誤脱等



おさとうカカオ



 たまには本人の意向を汲んで、ミンと呼んであげるのもいいんじゃないか。
 なんて思いつきから今回はそうしてるんだけど、セツに結構嫌がられるわ、当の本人思ったより嬉しそうじゃないわ、やるんじゃなかった感が強い。ヒドい。女性陣+セツから甘引きされてる方がいいっていうの。マゾなの。
「どうしてそう微妙そうな反応なんです?」
「え、マジ? 俺そんな顔してたっけか」
 ストレートに尋ねてみると、目を丸くされた。そしてすぐさま、
「やっぱアレよ、サクラだけだぜ呼んでくれるの。照れてンだよ」
「そういう顔じゃなかったし。迷惑……でもないかな、変な顔だったよ」
 こう、居心地悪そうな。果たして沙明またグノーシアなんじゃなかろうか――とはさすがに言えないので、代わりにからかってみることにした。
「ほら、ミンってセツに熱烈アプローチしてたでしょ? だから誤解されたくないのかなって、しくしくさめざめ」
 わざとらしい鳴き声の擬音をつければ、しげみち辺りの嘘しか見抜けない沙明もさすがに冗談だと分かる訳で、軽快な笑い声を上げる。
「イヤイヤ俺ァ来るもの拒みませんよ? それはそれ、これはこれってな」
「えーっと別にそういうんじゃあないんだけど……?」
「つーかァ」
 言葉を句切り、周囲を見渡す沙明。廊下に他の人の気配がないことを確かめるとやや声を潜めた。
「お前がミンって言うたびだな、セツが殺気を向けてくるんだぜ。カァーッ、何したって言うんだよ、なぁ?」
「あ、あー……そう、なんだ」
「気付いてなかったンですか」
 気付いてなかったというより、多分、当たり前すぎて無意識スルーしてたんだと思う。セツ、定期的に「やっちゃいました」するから。情報交換の際、沙明絡みの話題だとちょっと機嫌良くなさそうだし、フォローしたときも反応鈍かった――どころか嫌そうだったし。一体何やったの沙明。
「じゃあ聞くけどよ、セツ、どうよ」
「いい子。色々お世話になってる」
「だろォ?」
 だから別にセツが本命とか言う話じゃあない。暗に言っていた。
 でも、うんうん肯く沙明は説明責任を怠っていると言わざるを得ない。そりゃあわたしはボノボと育ったことと、ボノボがどういう動物かを知ってる。知ってればそうだねーで終わる。けどこのわたしにその知識があったらおかしいんだ。
「つまりなぁに、ミンはいい子にお世話になったらキスとかしちゃうの?」
 ベーゼがどうの、セツとお迎えに行くと半分はそう口にするんだよね。……あとの半分はその前にセツが実力行使しかけるから宥めることとなる。
「キスどころか……どうよサクラ、今から説明してやろうか。体で」
「セツーわたしの貞操が沙明に奪われるーって叫ぼっか?」
「やめてサクラ様。俺もちょっと身の危険感じてンのよ真面目にさァ」
 真面目に、なんて言うけど半笑いで震える姿はどうひいき目に見ても余裕綽々だ。加えて耳に口を寄せてこんな問いまで仕掛けてきた。
「冗談抜きで”初めて”なワケ?」
 飽くまで軽口だなーと分かる調子だからわたしもわざとらしく、
「きゃーミンが初物食いを、初物食いをー」
 など棒読みで口にしながら彼の胸板をぽかぽか殴るフリをする。
「ハッハー全然痛くねェなー」
『あの、沙明様、サクラ様、ここは公共の場とも言えますので、そろそろ――』
 ふざけていると、LeViから控えめな注意の声がかかった。もっともすぎるので手を止める。
「あ、うん、ごめんねLeVi」
「つまりプライベートな空間ならオールオッケェエ!ってコトだろ? よし、行くかお前の部屋」
 沙明は自分の胸を叩いていたわたしの手を掴むとニヤリと笑ってそう言うけど、当然答えはノーだ。だってそんなことしようものなら、
「セツに宇宙遊泳させてもらえるね」
 沙明だけが。宇宙服なしで。
 う、と濁音つきの一音を漏らし、
「そーいやメシまだだったなァ」
 こっちの手をぱっと離した。それに安堵を覚えると共に……どうして残念を抱いているんだろうね、わたし。変なの。
 さておき、ご飯ならわたしもまだだ。さっさと食堂へ向かう軽薄な背中に遅れてわたしも背後に振り向き食堂へ――向こう、として。体制を崩した。ぼうっとして脚に足を引っかけたらしい。
 器用だなあと他人事めいた思考とは裏腹、喉は、きゃ、と短い悲鳴を上げていた。
「ぅおッ!」
 わたしの腕を咄嗟に沙明が掴んでくれるけど、絡みかけた足は転倒を避けようとたたらを何度も踏む。そのついでに。自分のものじゃない足を引っかけた。足払いをかけられた沙明も姿勢を崩せば、あとはなし崩しというか、ドミノ倒しというか。
「「あ」」
 ステーンと行ってしまった。いや、べちょっ、かな。床の感触じゃない。硬くない。いや硬いような? ――あたたかい?
 受け身に失敗して目の端に溜まった涙は目を開くと頬を滑り落ちてくすぐったいけど……とんでもない事実に気付いてそれを拭うどころじゃなくなってしまう。
「ッてぇー……」
 顔を歪める沙明が、視線の下。
 と、言うか。焦点が合わないほど近くに彼の顔がある。驚いて身を引くと、上半身が安定を欠いて左右に揺れた――それもそのはず、だって、沙明の身体を下敷きにしてるんだから。
「ぇや、あ、ごめん! どか、どかない、と」
 泡を吹きながら横に転がろうとして、また足を引っかけた。今度は一人でべちょっと転ぶ。
「ぎゅ!」
 転ぶって言うより、倒れる、かな。とにかく人間滑り台みたいな体勢になった。お尻が高い位置で、残りが床と接地してる感じ。
「ぶっ! サクラ、おい、大丈夫かよ。こっちは……まァケツと腰は痛ェけど無事だぜ」
「ほん、ほんと?」
「あーヘイキヘイキ」
 言いつつ沙明は片膝立ちの姿勢になってわたしに手を差し出してくる。
「さっさと起きろって。ッたく、いつまでも顔床に付けてちゃキュートでプリティーな魅力も半減だろォが。……それにそのスカート丈だとな、多分見えてっぞ」
 何が、とは言われなかったけど示すものは明瞭すぎたからそそくさ立ち上がる。全身に転倒時に受けた衝撃の名残があるとはいえ、医務室へ行くほどでもないと思う。
「下着までピンクなのな、グッド」
「いやいや、見えてないでしょ」
「ピンクじゃねェの?」
 ピンクです。
 視線を明後日へ向けるしかないわたしに、
「ま、メシ行くぞメシ。何食う」
「んと、昔ながらのナポリタン。ケチャップたっぷりで。ミンは?」
 聞き返しながらちょっと鼓動が早くなる。沙明、無意識なのか何なのか、手を繋いだままだ。指摘するのも意識しすぎてる気がするし、振り払うのは言うまでもなく失礼だし、別に嫌って訳じゃないし……。
 こういう時、モテモテの子だとどうするんだろ。握り返すかな。沙明の手はわたしより大きいし、繋いでると安心感がある。だからこう、ぎゅっと、ぎゅっと。
「俺? どーすっかね。ぶっちゃけあんま食欲湧かねェんだよなァ、ホラ、俺ナイーブだろ」
「今日はコールドスリープ直前だったもんね」
「ヒッデェ話だぜ。目立たないようにって喋んな過ぎたか」
 手を離してもらうにしろ、握り返すにしろ。タイミングを逸して会話は続いた。あぁもうヘタレだなあ、わたし。あったかいなあ、手。
「いいよね、おてて繋ぐの」
「……パードゥン?」
 何を「もう一度」? 首を傾げると沙明は改めて問うてくる。
「シェイクハンド好きなンだ?」
「あ。あー……えっと、うん……?」
「なんで疑問形よ」
 声に出てたんだって動揺してるからよ。
「さっきもそうだったけど。顔、赤いぜ」
「家族としか繋いだことない……」
 だから、ということにしておこう。
「ふぅン? へェ」
 ちょっと意地悪そうに目を眇めて笑いながら、
「それはやっぱアレですか、俺のこと男として好きってコクってンですか?」
「むー……」
 否定の言葉がさらっと出せないのは本当に困ったことだ。代わりに出たのが、それはもう幼稚な一言。
「いじわる」
 すると沙明はぐ、と喉を鳴らした。繋いでいた手を離しながら謝罪の言葉を紡ぐ。
「悪ィ、茶化しすぎたわ」
 さっきと態度違いすぎないかと口にしようとしたけど、やめた。こっちも随分態度が違う。
 彼は初対面の印象よりも随分と(本人は絶対認めないだろうけど)優しいし、踏み込んでこない。わたしはどう考えても恋愛対象として意識してる応対になってしまった。ちょっと距離を置かれたんだ。
「ずるいー……」
 頬が自然と膨らむ。
「沙明は、そゆとこずるいよね」
 やや足早に食堂へ向かっていた彼は顔だけで振り向き、けれどすぐ視線を余所にやる。軽い嘆息ののち髪をかき上げあらわれるのは苦笑だ。
「――賢いんだよ、俺ァ」
 てのひらから熱は消えて、ちょっとさみしい。