カプ厨で夢厨で厨二病で高二病なオタが好きな物を欲望のままに書いています。

2019年9月3日火曜日

怪物は君が食べたくてしょうがない

沙明←女主人公でループ中のとある一幕(捏造)
主人公が人、沙明がグノーシアのあのイベントでも女主人公なら抱きしめる選択肢が欲しかった話

・女主人公について
 個性ある方
 伏せるのも違和感あったので名前が出ます(サクラ)
・時々修正される誤脱等


怪物は君が食べたくてしょうがない



 セツは時々沙明をやっちゃって、それはもうしょうがないことだと思ってる。だって普通に引く。あんまりにも下半身直結な発言が多すぎるし、きっとわたしの知らないところで汎を選んだセツには耐えられないこともあったんだろう。
 しょうがない、しょうがない。
 ……という思いとは別に、(この周回では沙明に会えないんだあ)なんて残念がよぎるようになってしまったのは、もう全く遺憾としか言えない。一緒に勝ち終わったら体で報酬払おうとする男なのに、ずるい。あんなこと言われたら、その、考え直しちゃう。いや、もう考え直してしまったのか。
 ただし、じゃあセツはどうしてあんなに沙明に苦手意識あるの? と疑問は残る。美人だからまだ汎を選ぶ前にとても嫌な扱いを受けていたせいかもしれないし、でももしそうだったら聞くの申し訳ない。
 コメットの粘菌が暴れ出した周からこっち。ちょっと宙ぶらりんなまま、わたしは103ループ目に突入していた。
 残念ながらこの周回で新しい情報は得られず、エンジニアもドクターも退場済み。グノーシア側は四人いるけど、コールドスリープできたと確証が持てるのは一人だけしかいない。
(だいぶ、積んでるかなあ)
 ちょっと面倒になってきた。セツが魚釣りであんなに喜んでくれた理由がよく分かる。これは来るなあ。ラキオのおかげで「銀の鍵」をどうにかすればいいと目星は付いたものの、満足してくれる情報がどれなのかわたしには一切分からない。セツの「銀の鍵」が喜ぶ特記事項ともまた違うみたいだし。
 というか、沙明。「銀の鍵」の扱いはひじょーに軽く、こいつの情報とか四つあればいいや……みたいな有様だ。そのくせ最後の一つが埋まってないと来た。
(セツの「銀の鍵」での特記事項が多かったりして?)
 ちょっとモヤモヤ。セツもコメットの粘菌が船を占拠した一件には立ち会ってるんだっけ。ならセツも沙明に手を引っ張ってもらったり、なんだり、しちゃったのかな。
 でもそれならもうちょっと態度甘いか。セツ、優しいから。早くループを抜けさせてあげたいな。もちろんわたしも。
「なァに百面相してんだ、サクラ」
「うひゃ!?」
 顔を上げるとやや呆れ顔の沙明がいた。ちょっと焦りながら、
「もっ、もう、誰がグノーシアかって疑うのヤだなーって。セツとかオトメとか、わたし凍らせたくなかったしっ!」
 咄嗟にオトメまで挙げてしまったのは失敗では。沙明が曇り顔になるより先に変な汗が背中にぶわっと浮かぶ。
「そのう、ごめんね。食堂でする話じゃなかったね」
「あー、気にすんな。どっちとも仲良かったろ。オトメとは協力体制取ってたよな」
「うん……」
 彼女は一緒に頑張ろうと声をかけてくれることが多い。癒やしと和みしかないような子なのに鋭い知性を秘めていて、わたしは(もしかしてこのループではグノーシアなんじゃあ?)と考えてるときでも組みそうになってしまう。
 ただ、生き残らせることは極めて難しかった。聡いオトメはグノーシアに襲われやすく、優しいオトメはグノーシア仲間を庇ってすぐ疑われる。
「えーっと、沙明はご飯食べないの?」
 気分を切り替えるべく、食堂らしい話を振ってみた。
「オイオイ、どんだけ考え込んでたンだよ。ずっと目の前で食ってたろ? で、俺が食器出し終わっても唸ってたから、イヤ麺伸びちまうだろってんで」
 気遣って声をかけてくれたらしい。って待って。
「うわーん! わたしの、わたしの味噌ラーメンがぁっ」
「マジか。言われなきゃ分かんねェ……汁なし味噌ラーメンですか? 新しいのもらった方がいいなコリャ」
「食材に余裕あるって言ってもコレは、うわあ、わたしが悪いから」
 沙明の言うとおり、元が味噌ラーメンと知っていてようやく汁なし味噌ラーメンの言葉が出る程度に、ソレは冒涜的な代物へと変化していた。恐ろしげなものを見つめる彼を横目にわたしは不始末の処理を始める。でっぷり肥え太った麺は、うどんのような厚みと流動食の噛み心地、脳天突き抜ける濃い味噌味を提供してくれた。
「うまい?」
「未加工の五年前の古米って、おいしいと思う?」
「よォく分かった」
 大した会話もなく沙明は席を立ったけど、こっちは結構浮かれている。チョロい。自分で自分が恥ずかしい。
 そしてそういうチョロい莫迦さは自分に対して早速牙をむく。
 七日目だ。
 まさか半ば投げている周回でここまで残るとは全く考えてなくて、率直に言うと誰が怪しいとかサッパリだった。そうすると判断基準は一つしかない。前回一緒に残ったことのあるシピを凍らせて何か新規情報がないか確かめてみる。失敗してもそれはそれ。
 そうして船内に残るのは、もうわたしと沙明しかいない。
 ところでだけど。セツがループのタイミングを分かるようになってきたのと同じで、わたしも(あぁ、負けたな)となる瞬間がある。人としてなら、コールドスリープをスタートさせたその刹那だ。
(あ、沙明がグノーシアだったんだ)
 直感にちょっとでも残念がこもるのは、初めてのことだった。
「これで――」
 嫌そうに、あるいは辛そうに。グノーシアとしての義務を果たした彼は自身の正体を明かす。
「これでお前まで消しちまったらさ。また俺、一人っきりになっちまうんだよな……」
 ちょっと迷う。迷って、結局その発言で気付いたってことにする。実際、議論中全く気付けなかったことに嘘はないから。
「消さない、って選択肢はないの? 一人が嫌なら選べないかな」
 自分で言っておいてなんだけど、難しいはずだ。あの独特の衝動は人格というか、それまでの人生までも飲み込んでくる怪物の大口だ。わたしもセツもループを抜け出すため、という大義名分を抱えているものの、それさえも時にあやふやになる。
 第一、ループしたらこの宇宙におけるわたしはどうなることか。いなかった前提で改竄されるか、この船での記憶がない小娘が立ち現れるか。
 どっちにしてもこの問いは意味ないよね。感傷もいいところだ。
 やっぱり沙明は首を横に振った。
「衝動がさ。自分でも抑えられねェんだ」
「……うん」
 返す言葉も貧困で辛い気持ちになる。
 この沙明には、このループしかないのに。
 ほとんど衝動的に彼の背に腕を回してしまったのは――身体的なコミュニケーションを基礎として育った彼には、言葉よりいいかと思ったためだ。そういうことにしておこう。
 身長差のせいで抱きしめると言うよりほとんど抱きつくような無様さだったけど、沙明はちょっと息を呑んだあと、されるがままになった。
「俺は……どうしたらいい?」
 わたしは、消されてもいい。次がある。恐怖はなくならないがそう思える。でもそうすると、沙明は彼の嫌がる一人ぼっちだ。寄港地でも人を消していくしかないんだから。グノーシア仲間が出来るかもしれないと言っても、元々グノースに捧げる行為自体を厭っていて――袋小路にしか、ならない。
「教えてくれよ、なァ……」
「ごめん」
 わたしも、刻限を感じつつある。情報を得られないと知った「銀の鍵」は次の平行世界を目指そうとしている。一緒にコールドスリープしようか、なんて提案も間に合いそうにない。
「……ごめんね」
 腕に力を込めると、わたしの背にも腕が回った。ほとんど触れるだけのそれに苦笑が漏れる。こういう時、なんで一歩引いちゃうのかな。そこにコロッといっちゃったわたしもわたしだけど。
「次は、みんなで終わりに出来るといいね」
 細身に見えてもわたしよりかは広い背を、ゆっくり撫でた。